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「はじめまして、FC今治です。」チケットが目指す、移住者とまちの"橋渡し役"
2022年3月。FC今治(運営会社:株式会社今治.夢スポーツ)は、今治市、そして「次世代育成パートナー」である株式会社ネットプロテクションズと協業し、今治市に転入する方を対象としたサッカー観戦招待チケット『はじめまして、FC今治です。』チケットの運用を開始しました。
年間約3,500名(約3,000世帯)が新規転入し、宝島社発行の『田舎暮らしの本』2022版・第10回「住みたい田舎」ベストランキングでは、「子育て世代」と「シニア世代」で"住みたいまち全国1位"に輝くなど、移住のまちとしても注目が集まる今治市。 『はじめまして、FC今治です。』チケットは、そんな今治市で新生活を始める転入者の方々が、より気軽にスタジアムに足を運べる環境づくりを目指すための新たな取り組みです。
今回の企画の裏側を、今治市役所 しまなみ振興課 移住定住推進係 野尻雅裕さん、株式会社ネットプロテクションズ 原良太さん、株式会社今治.夢スポーツ マーケティンググループ 執行役員 中島啓太が語りました。
"移住者目線"から生まれた 『はじめまして、FC今治です。』チケット
ーこのチケットの企画を思いついたきっかけは何だったのでしょうか。
中島啓太(以下、中島):2020年のコロナ禍以降、新しい観戦者を獲得するための情報発信に苦戦するようになっていました。今治市には約15万人が住んでいるものの、FC今治の試合を観戦する人は毎試合2,000〜3,000人程度。もっと情報を届けるべき人たちがいるものの、的確にリーチできていないという課題を抱えるようになっていました。
ーなるほど。そのなかでも、移住者にフォーカスした理由はありますか。
中島:私自身も移住者なのですが、移住直後は身近な情報源を探しても、なかなか価値のある情報を見つけられずにいた経験があります。コロナ禍で抱いた会社の課題感を考える中で、自身の経験も相まって、もしかすると移住者が"最も情報を届けられていないターゲット"なのではないかと考えるようになりました。
今治での新生活を楽しみに転入してきた人々の、コロナ禍でも楽しめる体験を見つけるお手伝いができないか?そこで、転入時の最初のタッチポイントとなる市役所を起点に情報を届けられたら理想ではないかと考えて、連携を模索し始めました。
野尻雅裕さん(以下、敬称略):私自身も埼玉県から移住したのですが、中島さんと同じで、移住当初は地域の方に情報を聞くしかない状況でした。些細なことですが、転入時に市から配布されるごみカレンダーなどの地域の情報は、特に転入者にとっては死活問題レベルで重要です。それを実感しているからこそ、私自身も日々の業務を通じてできる限り地域について詳しく知り、移住相談の段階からサポートしていきたいと日々考えていました。
今回の企画について、注目度の高いFC今治に関する情報は、移住者にとっても価値のあるものになるだろうと当初から感じていましたね。
中島:とは言え、ただ転入者に紙のチケットを渡すだけでは、たとえ機会提供ができたとしても、関係は一度きりで終わってしまいかねません。うまくデジタル化することができればユーザー情報からターゲットの理解度を高められるし、継続的な情報発信を通じて関係性構築もできる。何かいい方法がないか検討するなかで、次世代育成パートナーであるネットプロテクションズさんの『あと値決め』が活用できるのではないかと考えました。
観戦体験にマッチする『あと値決め』の仕組み
ーたしかに、転入時にはまちの情報を少しでも多く入手したいニーズは高そうですね。『あと値決め』の仕組みについて教えていただけますか。
原良太(以下、敬称略):私たちの提供する『あと値決め』は、顧客がサービスを体験した後に金額を決めて決済できる、いわゆる「ポストプライシング」を実現する仕組みです。つまり『はじめまして、FC今治です。』チケットでいえば、チケットを手に入れて実際に観戦するまで費用は発生せず、観戦後にお客さん自身で値段をつけていただきます。
原良太(以下、敬称略):この仕組みの本質は、"応援や感謝の気持ちをお金と一緒に届けることができること"。かねてからこの感動価値を値段としてフィードバックする仕組みは、地域活性化と相性が良いのではと考えてきました。地方には「お金が集まりにくいけれど社会的価値の高い活動」がたくさんあります。応援や感謝を価値に変える『あと値決め』は、そういった活動の活性化にも一役買って貢献していきたいと考えています。ちなみに、スポーツクラブの公式戦における『あと値決め』の導入は、今回が国内初でした。
中島:この仕組みを活用することで、観戦までのハードルを取り払うことができる点も一つの狙いでした。とにかく、まずはスタジアムに足を運んでもらう。そこで観戦体験が感動を与えられたなら、その際にはフィードバックとともに『あと値決め』をしてもらえる。観戦終了後も継続的に情報を届けることができる。双方がハッピーになれる構図だと思いました。
アンケート設計とチケット利用者からの声
ー実際にはどのような流れで移住者にチケットを提供されているのでしょうか。
野尻:今治市への移住者が市役所で転入手続きをする際にアンケートをお願いしているのですが、回答してくださった方にお渡しするノベルティの一つとして活用しています。
ーこの取り組みをしていく上で、工夫した点はありますか。
中島:『あと値決め』では、観戦後にメールでアンケートを送り、体験を思い出しながら回答していくことで値付けしてもらいます。肝となるアンケート項目に関しては、ネットプロテクションズさんからもアドバイスをいただきながら、時間をかけて設計していきました。
原:アンケート項目は大きく2つに分かれています。一つ目は属性アンケートで、過去のサッカー観戦経験の有無、誰と来場したか、今後も来場したいか等を聞いています。このデータを活用すれば、ターゲットとなりうる人物像をより具体的に描けます。
そして、二つ目は"値決めを行うための"アンケートで、以下の5項目を設定しています。
1、スタジアムでの感動やわくわくを感じたか
2、サッカー以外の取り組みも応援したいと思うか
3、今後もスタジアムに行きたいか
4、友達や家族も誘いたいか
5、もっと応援したいか
ー実際に利用された方からはどんな声が届いているのでしょうか。
中島:2020年3月の提供開始以来、合計13組の利用がありました。アンケートには、自由記述のコメント欄もあります。まだ『あと値決め』で価格を付けた方はいらっしゃらないのですが、たとえ0円であってもコメントを残してもらえることに非常に意義を感じています。例えば、「里山スタジアムの建設を見て、とても楽しみになった」「地域に根ざした活動をしていることに感動した」など、お金に表しづらい価値を書き残してもらえることは会社として大きな財産ですね。また、これまでのアンケート結果では4~5割の方がサッカーの公式試合を初めて観戦された方でした。きっかけがあれば足を運んでくださるということが分かったのも大きな成果です。
原:アンケート結果を拝見すると、雨の日対策など観戦体験に対する改善案も散見されます。一度観戦してみて、そこで仮にネガティブな要因に気づいたとしても、フィードバックしてもらえることで次に繋げることができます。また、属性アンケートでも、現時点の利用者は8割が家族での利用だと分かりました。週末のレジャーとしてご利用いただきながら、今治市という地域に馴染んでいくきっかけになっていることも感じています。
野尻:今治市への移住者が市役所で転入手続きをする際にアンケートをお願いしているのですが、回答してくださった方にお渡しするノベルティの一つとして活用しています。
『はじめまして、FC今治です。』チケットのこれから
ー今後、このチケットの取り組みをどのように広げていきたいですか。
中島:現在、チケット提供時の登録データを活用して、以降の試合情報やその他の体験プログラムといった情報を届けていますが、なかには初回観戦のあとも二度目、三度目と継続的にスタジアムに足を運んでくださる方も出てきています。反応は十人十色ですし、利用件数やアンケート回答率もまだまだこれからですが、移住者がいる限りずっと続いていくものなので、FC今治を知っていただくきっかけとして非常に固い土台になっていくと思っています。
また今後は私たちの試合情報や活動のお知らせだけでなく、生活に密着した地域の情報も含めてお届けすることで、まちのひとつのコミュニティになれればとも考えています。
そうすることで、小さなきっかけからですが、今治市全体が住み心地がいいまち、ワクワクするまちになっていくことに繋げていきたいですね。
野尻:移住者にとって転入時の最初の入り口は市民課です。そこで、地域に馴染んでいくきっかけとしてFC今治というひとつのコミュニティに交われるきっかけをご案内できることは、非常に意味があると感じています。
移住者は、次の移住者をたくさん呼んで来てくれます。1人の移住によって今治市の関係人口は非常に大きくなりますし、そこから地域のファン作りにも発展していきやすい。そのきっかけの一つにFC今治があり、試合観戦がきっかけになればと思います。「住みたい田舎」ベストランキングで全国一位になったことで注目が集まっている地域ですし、今後も多くの方が移住され、その方々にチケットの利用を通じて今治の魅力を体感してもらえたらと思っています。
原:チケットを利用して訪れてもらったスタジアムで、移住者に向けた"ならでは"の取り組みを展開するなど、現状の移住者向けの取り組みを強化していけたらと思っています。
それと同時に、移住者というタッチポイントを超えて、ファンになった後の方が継続的に応援や感謝でお金を届ける仕組みが作れたらいいなと思っています。FC今治と関わる中でより熱心なファンになってもっと応援したいと思った時に、応援や感謝を届けやすい仕組みとして『あと値決め』を使ってもらえたら理想的ですね。
また、一度離脱してしまった方に対しても展開の余地を感じています。たまたま観戦した試合が盛り上がりに欠けただけかもしれないし、次はより大きな感動を感じてもらえるという可能性も、当然あると思います。『あと値決め』で一旦価格というハードルを取り除くことで、アプローチ次第では再度試合に足を運んでもらえる可能性も高まると思います。
中島:これからもっと改善できることがあると思うので、3者で協力してこのチケットの取り組みをさらに大きく育てていきたいですね。今日早速野尻さんからお話を伺うなかで、移住者に情報を伝達いただく今治市の市民課の皆さんと連携してできることがもっとあるのではないかと感じました。例えば、窓口でFC今治のTシャツを着てもらったりと、もっとワクワク感を演出できるんじゃないかなと思っています(笑)。
観戦体験をきっかけに、チケット提供に留まらない 移住者とまちの"橋渡し役"に
まだまだ始まったばかりの『はじめまして、FC今治です。』チケット。それは、FC今治の理念でもある"心の豊かさ"を起点とした発想で、より良い未来を実現しようとする取り組みでした。来る里山スタジアムの竣工に向けて、地域に根差したフットボールクラブFC今治は、地域コミュニティ、そしてまちのインフラとして、その渦を拡大しながらこれからも人と地域を繋いでいきます。
皆さんの身の回りにいる、これから移住される方々、移住を検討をされている方にも、ぜひ『はじめまして、FC今治です。』チケットをご案内いただけましたら幸いです。
【3者プロフィール】
今治市役所 しまなみ振興課 移住定住推進係 野尻雅裕
旅行会社の企画営業職を経て、2016年に関東から今治市に移住。以降は今治市の職員として、市民課、イベント交流推進課でイベント企画等に関わったのち、2022年4月より現職。しまなみ地域における移住相談や移住定住に関わる企画立案などに従事。
株式会社ネットプロテクションズ
原良太
新卒で株式会社ネットプロテクションズに入社し、ポストプライシングサービス「あと値決め」の立ち上げに参画。現在は、セールス/カスタマーサクセス領域のマネジメントを行う。
「あと値決め」はポストプライシング(後から値段を決める形式)を一貫して代行する国内初・国内唯一のサービスで、CtoCマッチングプラットフォームや上場企業から個人事業主まで幅広く利用されている。
1990年大阪府生まれ。2012年に英国の大学を卒業後、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社に入社。2015年からは、岡田武史サッカー元日本代表監督がオーナーに就任した、FC今治の再出発(Re:Start)をコンサルタントとして支援し、2016年に転職して現在に至る。