- ホーム
- 特設コンテンツ
- 岡田 武史 インタビュー 第3回
岡田 武史 インタビュー 第3回
既存の枠組みを超えたスタジアムを
―スタジアムというお話がありましたけど、結構大規模なお話だと思うんですよね。
「大規模だよね」
―具体的に考えられてることとか、可能性としてはいかがですか? スタジアムができると言ったら、今治市民の方々はみんな驚くというか、喜ぶと思うんですけど。
「どうしても自治体や県、市の力がなければね、完全にプライベートでは無理だよ。スタジアムはサッカークラブの根幹となるものだし、国や自治体、パートナー企業はじめ各企業、応援してくれる出資者、サポーター、地域のみなさん、本当にみんなの力を借りて、その力を結集しないと成功しないと思っている。だから、あまり自分の思いを熱く語りすぎちゃって変に誤解されたりしたくないので、ここの発言は非常に難しいんだけど、今考えてるのは公園法とかに引っかからない複合スタジアムを建てたいわけ。スタジアムにホテルを併設して、EXILEのダンス教室を入れて、その上にはSAPの分析所みたいなのを入れて、ビッグデータを分析するわけさ。」
―SAPさんというのはどういう。
「SAPっていうのはドイツの基幹業務向けのシステム会社で、最近はビッグデータを解析して新しいビジネスを作り出そうという取り組みとかもしてたりするんだけど。世界でも3本の指に入るんじゃないかな、そういう大企業向けシステム会社の中で。そのSAPが今スポーツに進出しだして、ドイツ代表の分析やったり、フォーティーナイナーズのスタジアムをスマートスタジアムにしたのがSAPなんだよ。スマートスタジアムってさ、スマホを持って車で行って、ピッてやったら駐車場入ってどこへ停めろって出て、チケットをピッてやったら席まで案内してくれて、そこでコーヒーとハンバーガーを注文したら持ってきてくれて。試合観てる時に、あの選手面白いなって思ったらデータがバーッて出てきて、帰る時に『あの選手のユニフォーム、家へ送っといて』ってピッてやって。うちのスタジアムもそのスマートスタジアムにしようと思っていて、SAPもやろうやろうって乗ってるわけよ。それで、ここへ来たら自分の分析からすべて最高のSAPというシステムでやってもらえて、それに基づいたトレーニングを指導してもらえて、そしてその上に治療院もあってという今治ラボみたいなのができて、いろんなスポーツのトップアスリートがここへやってくると。ケガの治療も、リハビリも含めてね。そういうスタジアムにして、EXILEのコンサートももちろんやる。コンベンションやイベントもやる。」
ーすごいですね。
「だろう。それでね、365日のうち300日ぐらい稼働するようなスタジアムで、ビジネスモデルとしてこうやったらペイしますってやれば、投資する人も出てくるはず。また、レベニュー債っていって、地方自治体が税金を担保にしない債券を発行できるわけ。そこの売上だけを担保とする、そういう債券を発行したりとか、日本政策投資銀行でモデルケースとして、今どういうガイドラインができるかっていうところまでは予算つけてやってくれてるんだよ。この前ゴールドマン・サックスにも会ったんだけど、レベニュー債発行するなら手伝うっていう話をしてくれて。」
ービジネス的にも十分行けると。
「僕は不可能だと思ってないんだ、正直。多くの人がそんなの無理だって言うんだけど、そうじゃないと思うんだよね。無理だと思ったら無理だけど、ここでペイはある程度していける。そして最初のベースとなる基金は、レベニュー債みたいな地方自治体がトントンでやっていけばいいとなればね、土地を無償に近い金額とかで貸してくれたら、十分やっていけるんじゃないかなと思って。いろんな人がその場に集まってくるような、ここが2017年の国体のテニス会場になるんでね、今、錦織(圭)テニススクールを作れって言ってるんだけど(笑)。すごい室内テニス場とかできるんだよ。もったいないから。まあ、そう簡単にはやってくれそうにないけど」
ーじゃあさっきおっしゃっていた広場みたいなものは、今治においてはスタジアムという形で、さまざまなビジネスパートナーと協力して、コンテンツとかスクールと呼ばれるものとか。
「いろんなアイディアが出てくると思うよ。今俺たちについてくれてるスポンサー、デロイトさんなんかはほんとそういうものを中心にした都市開発みたいなノウハウ持ってるし、またもっとそれをレベルアップしていけるだろうし、デロイトとEXILEのコラボレーションで何ができるだろうとか、そこに三菱商事が来たらどうなるだろうとか」
ーワクワクしますね。
「そう。今までの枠組みっていうと業種別が多かったりするんだけど、そういう関係ない人が集まって新しい産業を興す。みんなイノベーションが大事だって言うけど、これからはおそらくそういうところにイノベーションのきっかけができると思うんだよ。そこに日本エンタープライズさんが入ってきて、コンテンツビジネスで儲けるとかね(笑)」
社会に閉塞感を感じた人々が、夢を求めて今治に
ー(笑)Jリーグのクラブっていうと、その地域のスポンサーがついて、そこでちゃんと管理する地域モデルっていうイメージがあったりするんですけど、今のお話だとゴールドマン・サックスが出てくるわ、三菱商事が出てくるわ、でももちろん地方の人たちも巻き込んでっていう。先程おっしゃったボーダーを越えていくような感じっていうのは結構新しい取り組みだと思うんですよ。みなさんやっぱりそういう機会を求めていたんですかね。好意的に受け止められているんですよね。
「俺は一番地元を大事に、今治であり、愛媛っていうことを大事にしてるけど、さっき言ったように生存競争に勝たなきゃいけないわけよ。そうすると外から人ともの、金が入ってくるような、どうしてもエネルギー買ったり、なんでも外に出て行くわけだから、ビジネスモデルを考えていかなきゃいけないと。現実に今、人が集まってきてる。東京や中国のスポンサーさんが入ってきてる。そういうのを見て地元の人達が、やっぱりひょっとしたらっていう光を見てくれてると思う。これは俺もびっくりしてるんだけど、人なりお金なりが、やっぱりそういう夢を求めてたんだなと。だって、みんなうちに来るほうが条件悪いんだよ。ものすごいところからみんな辞めてでもやらせてくれって、俺が呼んでるわけじゃないけど来てくれる。やっぱり今の社会に閉塞感をうちに来るみんなは感じてるんじゃないの?もちろんリスクはあるよ。それでもやってみたいって言って。今一流大学の3年生の女の子が、内々定もらってるのを待ってもらって、うちに来たいって見に来ている(笑)。うちは新卒採れるような会社じゃないぞって(笑)。給料そんな払えないぞって言ってるんだけど、でもひとつの歯車で言われたことをやる仕事よりも、何かを作り上げていけるところでやってみたいって言ってくれてて、そういうみんなの思いって、ありがたいよね」
ー確かに、熱狂できるものを求めてるというか。明日はもっと良くなるって必ずしも思えてない中で、このままでいいのだろうかって思ってますよね。そういう中で、今のお話はすごい希望を感じさせてくれる話というか。
「そうなんだよ。でもそれほど悪くないから、まあ、このままでって。どっかに閉塞感を持ってるんだけど、それほど悪くないなと。まあ、いまのままでいいかという感じで(笑)」
ーゆでガエルでいることはわかってるけど、まだ熱さを感じないかなっていう感じなんですかね。
「ゆでガエルなのかどうかはわかんない。ほんとにゆでないでぬるくいけるかもしれないし、まあそれはそれでいいかと思う反面、そんなところに『おい、ちょっと飛び出してみねえか』っていうものを見た時に、『おっ』と思うんじゃないの」
トップレベルの人材が集まった
ーそういうスケールのことをやるというか、クラブとかサッカー、スポーツっていう存在を通じて街全体のこと、また国とかがやるべきようなことくらいまでも視野に入れて今考えられてるってことで、オーナーをやるっていう意味でもあったんですかね。責任を持たなきゃっていうのもありましたけど、一方でやっぱり今まで監督業をされてきた岡田監督っていうイメージがあったんですけど、今のお話聞くと、もちろんチームのことは考えられてるんでしょうけど、どちらかと言うとオーナーとして、どうクラブが街を作っていくか、未来を作っていくかっていうことを。
「そうだね。やっぱり僕らはサッカーがメインだから、一番大事なサッカーがきっちりしなかったら、どんな大きなことを言っても話にならない。それはよくわかってるんだけど、やっぱりサッカーだけじゃなくてやらなきゃいけないことがこんなにあるんだというのは、もう指導者としてある程度やることやってきて、新しいチャレンジっていうのがそんなになかった中でね、このチャレンジっていうのは自分にとっても新しいチャレンジでやっぱりワクワクするし、今俺のスタッフっていうのはみんなワクワクしてるから。昨日も新しいコーチも集まって、みんなキラキラしてるんだよ。大変だけど、責任も重大になってくるけど、やっぱりこういうワクワク感を味あわせてもらえるっていうのはありがたいなと思うよ、ほんとに」
ー先日も決起会をされてたってことだったんですけど、コーチもまたすごい豪華なメンバーが。
「そうだよね。まずU-16、17の日本代表やって、世界大会も行ってる吉武がうちに来てくれることになったし、代表のコーチやったり、Jの監督やった大木も手伝ってくれることになったし。それ以上にJ1のトップレベルのコーチが、俺が声かけたわけじゃないのに来たいって言ってくれて。チームからも『岡田さん、いい加減にしてくださいよ』って言われて、『俺が採ったわけじゃない』って言うんだけど(笑)。それも給料下がるんだよ、みんな。おまえらいいのかって言うんだけど、ほんとありがたいよ。俺はやっぱり人だと思うから、そこだけはしっかりとなんとかお金をキープしようと思ってやってきたんで、そういう意味ではものすごく満足できる人材が集まった。フロントにしても、矢野を始め、東大、ゴールドマン・サックス......こんなやつが来るとこじゃないよ、ほんと。それ以外にも、ほんとにいいスタッフが集まってるから」
岡田 武史
大阪府立天王寺高等学校、早稲田大学でサッカー部に所属。同大学卒業後、古河電気工業に入社しサッカー日本代表に選出。 引退後は、クラブサッカーチームコーチを務め、1997年に日本代表監督となり史上初のW杯本選出場を実現。その後、Jリーグでのチーム監督を経て、2007年から再び日 本代表監督を務め、10年のW杯南アフリカ大会でチームをベスト16に導く。中国サッカー・スーパーリーグ、杭州緑城の監督を経て、14年11月四国リーグFC今治のオーナーに就任。日本サッカー界の「育成改革」、そして「地方創生」に情熱を注いでいる。